価格の乱高下は「売り惜しみ」ケースが大きかった。
実験では、削減義務を容易に達成できた企業と、できなかった企業との明暗が分かれた。
実験を分析した三菱総研の橋本賢研究員は、「容易に削減目標が達成できた企業は、早めに排出権のポートフォリオ(資産構成)を決め、各削減手段の長所、短所をよく見極めて、行動の計画を練りました」と語る。
例えば、自社の国内対策はコストがかかるが、確実に排出権が生まれる。
CDMやJ1は本当に排出権が生まれるか不確実性がある半面、他国で削減するためにコストが安い。
排出権取引によって外国から権利を購入することは、機動的に実施できるが、価格の変動リスクに直面する。
成功した企業は、それぞれの特徴を見極め、早めに対策を打ったようだ。
メカニズムの整備が、日本の将来に重要な意味を持つことも示している。
日本の京都議定書の取り組みが、「国民の巨額な税金をロシアに支払って余剰排出権を買う」という結末になるかは現時点では分からない。
また、企業が排出枠を設定され、自ら排出権を調達する形になるか、日本が国として購入する形になるかも不透明だ。
今後、ロシアはどう動くのだろうか。
シミュレーションのように、CDMやJ1が影響して国際的な排出権の価格が下落したり、売り手国ロシアが「京都議定書で金もうけ」を考えずに最大の買い手国日本に排出権を譲ってくれたりすれば、問題はない。
だが、そのような単純な未来が待っているかは分からない。
もう一つのCO2の買い手である米国は、京都議定書から離脱してしまった。
EUが域内での排出権取引を検討している以上、日本は売り手のロシアと向き合うことになる。
ロシアはこの構図を理解して、日本に対して排出権の売却を打診している。
経済産業研究所の戒能研究員はこう語る。
「売り手のロシア、ほぼ唯一の買い手国日本という構図は、経済学でいう『独占』と似た状態になります。
売り手側が価格を一時的でもコントロールできるわけです。
現在のところ、ロシアがどのように動くかは予想できませんが、危倶すべき状況です」。
CO2抑制の決め手と期待されているのが炭素税だ。
化石燃料を使う場合などに出る炭素の量に課税するもので、税の影響で炭素の排出が抑制されることと、税収による温暖化対策の促進を狙う。
新税導入への警戒感を和らげようとの意図のためか、環境省は「環境税」、「温暖化対策税」などとも呼ぶ。
EUでは多くの国が導入している。
中央環境審議会の専門委員会は二○○三年八月に炭素税(環境税)の原案を作成した。
同省は関係省庁や産業界との調整を本格化した。
また「国民との対話集会」とする大臣出席の説明会を頻繁に行っている。
原案の課税方式では、化石燃料の輸入・精製など流通の「上流」部分に課すのが有力とされる。
当然だが、企業や家庭が化石燃料を使うごとに、課金することは不可能だ。
そのため、実際に税を納めるのは化石燃料を輸入・製造した石油会社、商社となる。
環境省は「制度設計のたたき台」(環境経済課)としており、鈴木俊一環境大臣(当時)は「環境税のイメージは人それぞれ違うので具体案を示したい。
産業界を含め幅広い議論をしたい」(二○○三年七月の記者会見)などと言い回しに慎重だ。
不況に苦しむ日本経済の現状を眺めれば、税となると、批判を浴びかねないためだろう。
また、導入時期も示されていない。
ただ、地球温暖化対策推進大綱では、二○○四年にこれまでの政策の結果を見直し、次の政策を決めることになる。
この時期に環境省が原案を打ち出したことは、エネルギー源の大半を輸入する国では、「上流」課税だと納税者が限られ、徴税コストが安い。
課税の形は税金分を商品価格に上乗せし、これら事業者が納入する形になりそうだ。
だが、消費者への販売という流通の末端部分では、ガソリンの安売り競争などが激化している。
流通価格に増税分を転嫁させることは難しそうだ。
具体的な税率はまだ打ち出されていないが、同省の試算では、炭素一トン当たり約三四○○円、一トン当たり約一○○○円、ガソリン一リットル換算で二円程度を課税すると、一億四○○万トン減る。
二○○一年度排出量から基準年比マイナス二%までCO2が減ってしまう。
また、この試算では、GDPの減少はマイナス○・○六%にとどまるとする。
この場合の税収は九○○○億円以上と巨額になる。
税の使い途はまだ打ち出されて炭素税をめぐるメリットとデメリット二○○五年に実施したいとの意向があるようだ。
現在の状況をみると、経済界は総じて反対、経産省は慎重、推進派の環境省、政府税調・財務省は様子見といった構図だ。
経産省の村田成二事務次官は「具体的に環境税の議論をするのは早い」(二○○三年七月の記者会見)とクギを刺した。
政府税制調査会の石弘光会長は同八月、炭素税について「税調内でも意見は割れるだろうが議論はしなければならないだろう」と発言した。
世論がどのように受け止めるか現時点ではよく分からない。
環境省は二○○三年八月にまとめた「二○○二年度の環境に対する企業行動調査」で、温暖化対策での環境税(炭素税)導入に対する意見を聞いた。
「賛成」、「どちらかといえば賛成」が計三三・六%、「自主的努力で十分」、「税より規制的な措置を活用すべきだ」など消極的意見が同三五・五%。
この評価を眺めると他の新税に比べて国民の反感は小さいようだ。
また、民間の側からは、環境関係のNGOなどが「炭素税研究会」を作って、民間から課税案を出す、珍しい動きがある。
では、炭素税のメリットとデメリットはどのようなものか。
論点をめぐる賛成、反対双方の意見を併記してみる。
まず効果だが、さまざまな研究機関による経済モデル上の試算では、一致してCO2の排出が抑制されるとの結果が出ている。
一方で、エネルギー価格の上昇となるため、経済成長にはマイナスの影響をもたらす。
例えば、電中研は二○○一年に炭素税の影響を試算した(注一)。
一九九○年横ばいのCO2排出量に抑えることを目標とし、二○○三年に導入されて五年ごとに税率が引き上げられると仮定する。
二○一○年には炭素一トン当たり三万三○○○円(一トン当たり一万一○○○円、ガソリン一リットル当たり二○円前後)の税が必要だが、GDPの伸び率は何もしない場合に比べ、最大年○・八%のマイナスとなる。
炭素税研究会の試算では一トン当たり六○○○円(ガソリン一リットル当たり三円前後)の課税でGDPは同年に○・三%減という結果が出た。
低成長時代にこれだけのGDPの損失があることを、国民が許容するかは分からない。
また、これらの試算はコンピュータ上の計算にすぎない。
日本エネルギー経済研究所の十市勉首席研究員は「環境省案のように低税率にすれば、民生・運輸部門のCO2の抑制効果はほとんどないでしょう。
逆に、コスト競争に直面する産業界に対する打撃は大きいはずです。
負担の部門による不公平が生じます」と語る。
また、「エネルギーの使用では、抑えることでCO2削減に効果のあるポイントがあります。
それは石炭の使用で、経産省が石炭に増税をしたのはそのためです。
国民全体に広く薄く課税する必要がありません」(経済産業研究所、戒能研究員)との指摘もある。
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